1)多い食塩摂取量
かつて,本邦に高血圧が多く脳卒中が多発した理由の一つとして,食塩の過剰摂取があげられていた。食塩摂取量が多くなると血圧が高くなる。INTERSALT研究では,24時間蓄尿でみた食塩摂取量の多い集団では血圧が高く,また,個人の食塩摂取量と血圧との間にも正の関連がある。 現在の日本の食塩摂取量は,24時間蓄尿の成績からは,1日12g程度である。女性では男性よりもエネルギー摂取量の少ない分だけ少なく,1985年当時のINTERSALT研究では,日本の20歳代女性の食塩摂取量の推定値は,10g程度であった。1997年当時のINTERMAP研究による24時間蓄尿成績からの40-59歳男性の推定値も12g程度であった。240人を調査した2000年当時の35-60歳の事業所勤務者男性では,同じく24時間蓄尿による食塩摂取量の推定値は約11gであった。 平成18年(2006年)の国民健康・栄養調査結果では,国民1人1日当たりの食塩摂取量は約11g(男性12.2g,女性10.5g)であり,本邦の現在の食塩摂取量は1日11-12g程度であると考えられる。24時間蓄尿による過去の成績では,1950年代の東北地方の食塩摂取量推定値は,1日25gにも達していた。 『健康日本21』の食塩摂取量の目標値は,1日当たり10g未満であり,蓄尿成績から判断するとここ10年以上は大きな低下はみられず,その目標値にはいまだ達していない。日本を含む東アジア地域は食塩摂取量が多く,特に24時間蓄尿からの体重当たりのNa排泄量は,中国,韓国,日本ともINTERSALT研究の世界32か国52集団のなかで,いずれも高い集団に属している。 国民の食塩摂取量の減少は,その国民の血圧低下に影響を与える。INTERSALT研究では,集団の食塩摂取量が1日6g低下すれば,30年後の収縮期血圧の上昇が9mmHg抑制されると推定している。DASH研究では,減塩による血圧低下効果を検証しているが,それでは,INTERSALT研究から推定されたものと同程度であった4。本邦の高血圧対策にとって,さらなる減塩対策の推進が必要である。
2)肥満度の推移とメタボリックシンドロームの率
本邦は,先進工業国のなかでは肥満者の少ない国である。しかし,肥満度の指標であるBody Mass Index(BMI,kg/m2)は,男性では年々増加している。一方,女性では,50歳代まではむしろやや低下している。 日本の高血圧者の特徴は,かつては食塩摂取量がきわめて多いやせている高血圧者が多かったが,近年,男性では肥満を伴う高血圧者が増加している。 米国では,1990年以降のBMIの増加は著しく,メタボリックシンドロームに伴う高血圧が大きな比重を占めてきている。日本ではBMIの平均は23.5前後であり,平均が28以上もある米国とは大きく異なる。しかし,日本の男性では肥満に伴う高血圧が増加していると考えられる。平成18年(2006年)の国民健康・栄養調査では,20歳以上においてメタボリックシンドロームが強く疑われる者の比率は,男性24.4%,女性12.1%,予備軍と考えられる者の比率は,男性27.1%,女性8.2%であった。
3)高血圧未治療者および管理不十分の問題
140/90mmHg以上を高血圧とした場合,本邦の高血圧者のうち,30,40歳代では8割から9割の人が治療を受けていない。少なくとも,この人たちは生活習慣の改善による血圧低下を図り,血圧の正常化に努める必要がある。2000-2001年に実施された,12事業所の20歳以上の男女勤務者6186人の調査では,30歳代では,男女とも約70%の人が未治療であった。40,50歳代男性においても,44%,39%が未治療であった。これらの事業所では,毎年健診を実施しており,受診率も高いが,それでも40,50歳代男女の高血圧認識率は71-77%であった。 降圧治療患者における血圧管理状況を調査している大迫研究では,約半数の患者が通常の診察室血圧で判定しても家庭血圧で判定しても,血圧管理が不十分であることを見いだしている。さらに,全国の主治医のもとで降圧治療を受けている患者の家庭血圧測定による治療状況の研究(J-HOME)では,1533人の高血圧患者のうち約半数において,家庭血圧は高血圧に分類された。したがって,この研究においても,約半数が管理不十分であった。
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