【別 名】…アンズの種、杏子、苦扁桃
概 要 中国原産の落葉小高木。日本へは平安時代に渡来し、もっぱら薬用として栽培された。 現在では長野県などが主な栽培地で、『杏の里』は有名。開花期はウメより少し遅く、淡紅色の美しい5弁花を咲かせる。サクラより花柄は短く、花弁の先がくぼまない。葉の出る前にたくさんの花をつけるのでモモと間違えやすいが、本種は薯片の先が反り返り、枝の先端に芽がなく、そのすぐ脇に芽のあるのが特徴である。
実が熟すのは6月頃で、果肉が核と完全に離れるのも本種の特徴であb果肉と分離した核を風通しの良い日陰で乾燥した後、これを割って種子を取り出し、晒して乾燥したものが生薬の「杏仁」である。漢方では神農本草経に下品として「杏核仁」の名で収載されている重要生薬の一つ。鎮咳、去疾、緩下を目的に、麻黄湯、麻杏甘石湯などに配合される。肺の気を降ろし、大腸を通ずる作用があるので、風邪、喘息、便秘などに効果がある。また果肉に含まれるクエン酸やリンゴ酸は、糖質の代謝や鉄分の吸収を助ける働きがあるので、疲労回復、貧血予防、食欲増進などに効果がある。さらに、果物のなかで最も多量のカロチンを含んでおり、高い抗酸化作用が期待される。
ただし、種子(仁)には猛毒の遊離シアンや青酸配糖体アミグダリン(amygdalinC20H27NOH)約3%が含まれ、そのまま20〜40粒ほどを食べると多量のシアン化水素酸が遊離され、呼吸中枢を麻痩させて窒息死する。種子をすり潰すと、アミグダリンは杏仁自身に含まれる酵素のエムルシン(emulsin)によってベンズアルデヒド(benzaldehyde)、青酸およびブドウ糖に加水分解される。他に脂肪油30〜50%を含み、圧搾して得られた杏仁油は頭髪油として化粧品原料に、また圧搾粕を蒸留して得られた杏仁水は鎮咳薬にそれぞれ利用される。
和名は"杏子"の中国音がそのまま日本語となったもので、日本の古名は「カラモモ」であった。また医者の美称に「杏林」なる言葉がある。これは呉の名医・薫奉が治療代の代わりにアンズの木を植えさせていたところ、数年後に立派な林になってたくさんの実が得られるようになったという、「神仙伝」の説話に由来したものである。また聖書に書かれたリンゴは金色との表現があり、本来は本種という説もある。
中華料理のデザートとしてよく知られている杏仁豆腐は、種子の茶色い薄皮を取り除いた白い種肉の部分「杏仁霜」を寒天で固めたものである。舌触りもなめらかで、口中にいい香りが広がる。青酸ガスは杏仁をすり潰している間に揮散するので、杏仁豆腐を食べて中毒することはない。
【基原(素材)】…バラ科アンズの種子
※中医学の薬性理論の大きな柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」で、いずれも生薬の効能効果と関連があります。
【温寒】… 温 ※性:生薬はその性質によって大きく「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。 【補瀉】… 瀉 【潤燥】… 潤 【升降】… 降 【散収】… 散 【帰経】…肺・大腸 ※帰経とは生薬が体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。
【薬味】…苦・辛 まず心に入ります。 次に肺に入ります。 ※味とは薬の味のことで「酸・苦・甘・辛・鹸」の5種類に分かれます。この5つの味は内臓とも関連があり、次のような性質があります。 「酸」(酸味)=収縮・固渋作用があり、肝に作用する。 「苦」(苦味)=熱をとって固める作用があり、心に作用する。 「甘」(甘味)=緊張緩和・滋養強壮作用があり、脾に作用する。 「辛」(辛味)=体を温め、発散作用があり、肺に作用する。 「鹸」(塩味)=しこりを和らげる軟化作用があり、腎に作用する。 【毒性】…種子(仁)には猛毒の遊離シアンや青酸配糖体アミグダリン(amygdalinC20H27NOH)約3%
【薬効】…鎮咳作用 去痰作用 潤腸作用
【学 名】…Armeniaca vulgaris Lam. (Rosaceae)
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